台湾あれこれ、時々パン。

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台南の能盛興工場ーとびっきり苦い小確幸

※本記事は、掲載元《報導者》より翻訳及び転載の許可を得た上で投稿しています。
 原文:台南能盛興工廠:最苦的小確幸(文:劉致昕/写真:王文彦、2016.4.27)

 

台南の能盛興工場ーとびっきり苦い小確幸

近年、古都台南には「小さくても確かな幸せ」のムードが充満し、若者がさまざまな店を開いて観光客から注目を浴びている。

ある若者たちが市の中心地にある廃鉄工所を改造して作った「能盛興工場」は、社会と関わり、社会問題に積極的に切り込むという一風変わった姿を見せている。独立書店、パフォーマンス空間、ゲストハウスやファーマーズマーケットからLGBTのプライドパレードまで、その数々の活動が地域で波紋を呼んでいる。

 

台南の歴史ある建物で、あなたなら何を味わう?

スイーツ、カルチャー・クリエイティブ、ブランチ、ゲストハウスと、毎月200万人を超える旅行者の数に影響を受け、歴史ある建物が台南の新しい味わい方を開拓する場所へと姿を変えている。そんな台南を、ここ数年のメディアは「小確幸の城」と呼ぶ。

ところが、若者たちが資金を集めて築80年以上の鉄工所を借りてできた能盛興工場は、「とびっきり苦い社会問題」を提供してくれる。

「いらっしゃい、野菜市だよ!」週末の台南でどこよりも人だかりの多い神農街、正興街では、ギターやジャンベ(アフリカの打楽器)を背負った若者たちが路上で声を上げている。毎月第三週目に開催される「能盛興野菜市」には郊外の個人農家が一挙に集まり、有機コットン製の下着、手作りのドライフルーツ、無農薬野菜などが廃鉄工所にずらりと並ぶ。入り口では大きな鍋で薬膳鶏鍋(燒酒雞)が煮込まれ、薪がゆっくりと燃え、道端では美容師がヘアカットのボランティアをしている。これらの収益の三分の一が能盛興の「エコ基金」となる。

夕方になると、四、五十人が集まって「工場」内で一人50元の夕食を食べる。能盛興の道端のテーブルに個人農家の野菜が並び、露天商、旅行客、地域のお母さんたちが野菜をつまみながら互いの農地の話をする。「こういう調理の仕方があったのね」「若い人たちが一緒に食事したいと思ってたなんて」というように。世代も、生まれた街も、国籍さえも違う人たちが一緒になって台湾という土地の味を体験する。

中心街に位置する廃鉄工所を借りたのは「最初はただ基地が欲しかった」から、という能盛興メンバーの普京。何人かの友人とともに理想の暮らしを作り、環境、性別、食品安全問題についての理念を形にしたいと考えたのだと話す。

早くも二年が過ぎ、独立書店、パフォーマンス空間、さらには毎月の市場と、この場所はいまや100、200のボランティアコミュニティが集まる基地となっている。大規模な集会を4度開催し、なかには一週間の呼びかけで3000人以上の参加者を集めた反核デモもある。日本のバンドが演奏に来たり、ドイツやアメリカからの宿泊客が代わる代わるやってきたりして、彼らの小さな支えとなっている。

  

とびっきり苦い小確幸
ー清掃員、セメント工、塗装工、なんでもやった

都会の鉄工所に理想の“くに”を建てるための代償は計り知れなかった。

ただの古い建物だったものを、半年以上かけて自分たちの手でトンカチを鳴らし、大工や鉄工の技術を少しずつ身に付けながら改装した。開業してからは、工場の家賃を分担し、食べていくためにも、塗装工から工事現場の作業員、果物の収穫、水道・電気技師の補佐、清掃員まで、メンバーは女子を主体としながらも、どんな仕事でもやった。さらに元々モデル、ドラマー、バンドマン、建築学科出身だった彼らの技術も駆使して、理想のためにあの手この手で生計を立ててきた。

そういった状況であっても、関連したテーマを扱う団体、展覧会、パフォーマンスのためには無料で場所を貸し出している。それもこれも、理念と都市生活との継ぎ目を「溶接」するためだ。

「私たちはここを家みたいなものにしたいんだ」能盛興メンバーの高郁宜は、この場所をオープンにして、誰でも包み込めるようにすることで、理念を同じくする、あるいはよりよい暮らしを追い求める人々がここで仲間を見つけられるのだ、と話す。

毎晩の夕食もその例の一つだ。都会で働く仲間、友人が仕事を終えて円卓を囲み、まるで本当の家族のように、キッチンから運ばれてくるごはんを一緒に食べる。

店の経営という点で見れば、毎月の家賃と営業収入はすでにつり合いが取れているものの、事業として成功しているとははるかに言い難い。社会運動という角度から見るのであれば、能盛興は社会問題を都市での生活の中へ落とし込むことのできたコミュニティ運営者と言えるのであって、実生活に寄り添った方法で問題に取り組み、より多くの人々をコミュニティの中に引き入れることに成功している。

野菜市を通じて食品安全問題を考え、地元の個人農家を支援するという取り組みが一つ目の成功例だ。郊外の個人農家との協力により、よい農作物を都市に運ぶことができるだけでなく、農家同士が互いの経験や技術の話題で交流できる。さらには工場内に雑貨店を設置し、個人農家の作物を長期的に販売している。「だれでも体にいいものを食べられるようにあるべき」高郁宜は、夕食を共にすることで忙しい社会人や料理ができる環境にない若者も良質な食事が摂れるし、みんなで食べて農家を支援できるのだ、と話す。

もう一つの事例として、婚姻の平等をめぐる問題がある。

  

同性愛者の愛にも違いはない。
200人でお祝いした「彼女と彼女」の結婚披露宴

家族と呼び合う能盛興の中で、高郁宜と林昱穎は200人を招待して結婚披露宴を行ったことがある。その目的は、なじみのあるやり方で、なじみのない愛についてより大勢の人に知ってもらおうというものだった。

二人の女の子が、ごく普通の結婚式における二人の主役のように、テーブルを一つずつまわって祝いの酒を酌み交わす。親しい友人だけでなく、能盛興の隣近所の人たちもやってきて路地いっぱいに椅子が埋め尽くされる。披露宴会場では世代を問わず皆が二人を祝福し、普通の結婚式となんら変わりがなかった。ご祝儀を贈ることができるほか、台南市政府に向けて同性パートナーシップ条例を求める署名にサインすることもできる。

「結婚式を終えて、次に何ができるかって考えたんだ」と高郁宜は話す。昨年末、高雄、台北では次々と同性パートナーシップ条例が施行されたが、台南ではなんの動きもなかった。そこで能盛興は各地のLGBT団体と連携して台南でのデモを先導、「多様な家庭のあり方を認める法案」の推進を呼びかけた。

デモの開催、募金活動からテーマソングのEP盤製作に至るまで、台南で初めての大規模なプライドパレードの試みに、20の市民団体が参加し、2000人以上の署名が集まり、2000人を超える人が街を練り歩いた。

「プライドパレードに参加したのはこれが初めて」参加していた36歳の阿豪は、「気楽に歩いていたし、別にマッチョである必要はなかったね」と笑いながら話す。市場で能盛興を知ったのがきっかけで、今年台南へ引っ越すことにした。「そういった理念を、ここなら生活につなげることができる。自分と同じ考えの人がいるんだってことに気づく。しかも彼らはその考えの通りに生活してるんだ。」

夕食時の顔ぶれの中には他にもフランスからやってきたJonathan Petragalloがいる。「中に入ってみて、自分はベルリンにいるんじゃないかと思ったよ」彼は笑いながら、能盛興工場はまるでベルリンにある若者の溜まり場みたいだ、と話す。ヨーロッパ一貧しい首都と呼ばれてきたベルリンでは、新しい生活様式や実験的なコミュニティを通じて多様な文化や人材が引き寄せられ、第二次世界大戦による荒廃というイメージの街から前衛的なイメージを持つ街へと変化している。

観光の波が押し寄せる台南の、古い建物が立ち並ぶ中で、能盛興という場所が新たな扉を開くこととなった。平均年齢26歳の彼らには高尚な思想があるわけでも、長年にわたり社会問題と奮闘してきた経験があるわけでもない。けれども、彼らが自分たちの暮らしを通じて街の真ん中で理念を形にすることで、地元の人や観光客は社会問題と気軽に接することができ、新たな可能性と仲間の存在を知ることができる。

「苦労は過程にすぎない」林昱穎は、他のメンバーと同じように、両親からの理解が得られず、経済的にも厳しい状況に置かれ、世間から冷ややかな目で見られることもあった。それも暮らしの一部だが、一方で仲間はますます増えている、と話す。「苦労はぜんぶ楽しいことに変わる」思い返せば当初、鉄工所はどこから手を付ければいいのか分からないような状態で、火災にも遭った。それが今では、地域のおばさんたちや外国人まで、みんなが能盛興へ野菜を買いに、ごはんを食べにやってくる。彼らの理想の暮らしは、鉄工所から社会へとゆるやかにつながっている。「(壁にぶつかれば)乗り越えて、また乗り越えて、それを積み重ねて、常に前に向かって進んでいる感覚がある。それで十分だよ。」林昱穎はこう語る。

 

能盛興工場(能盛興工廠)Facebookページ
https://www.facebook.com/ffffactory

 

 

【訳者メモ】

2014年6月に、実はこの能盛興工場という場所に宿泊したことがある。記事に登場する高さんが工場の部屋の一つ一つを案内してくださって、人が住める状態に改装するまでの苦労話を冗談交じりに語ってくれたのを今でも思い出すことができる。ぜひ原文ページの写真を覗いてみてください。市場の様子が見れます。

台南は台北よりも雨が少なくて、夏はもちろん暑いけど比較的過ごしやすい場所。物価も台北より低いし、次に台湾に住むなら絶対台南がいいな~思い焦がれているところ。そのときにはまた能盛興工場に遊びに行こうと思っている。

ところでタイトルにもある「小確幸」ってご存知村上春樹がエッセイの中で言葉ですが、タイトルに使われるくらい台湾でも一般的に知られてる言葉なんだなと、改めて村上春樹の人気度を思い知らされる次第。